お局美智

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資金繰り表を開くと昨日と違っていることに気づいた。今月中に回収予定だった青田商店の売掛金5千万円の回収時期が翌月に遅れている。きっと、取引先の求めに応じて専務か常務が翌月にずらすことを認めたのだ。……あーあ、と声にならないため息が漏れる。 古い役員たちは、売り上げさえ立てばいいと考えていて、代金回収ときたら二の次なのだ。それで銀行から監査役が送り込まれるような事態になる。それさえなければ、近く愛川がその席に座る可能性もあった。 誰かが取引先の要望に屈して代金の回収を遅らせる度に、「代金の回収が終わってはじめて、仕事が終わるのです。安易な妥協はしないでください」と愛川が管理職の席を回るのを多くの社員が見てきた。 総務・経理部門の社員は愛川の言うことが当然なことだと思うのだが、取引先と直接やり取りをする監督や技術管理部門の担当者は「少しぐらいいいじゃないか。それで次の受注があるんだ」と、ぼやくのが常だった。
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