『クマさん。』

3/14
前へ
/14ページ
次へ
肩より少し下くらいまで伸ばした真っ直ぐな茶髪。 くりくりとした大きな瞳。 小柄で華奢な身体。 癖なのか、口元に微かに笑みを作ったまま彼女はこちらへ向かって歩いてくる。 早まる鼓動と湿っていく手のひら。 「.....いらっしゃいませ」 何とか小さく呟いた僕の後ろを通り過ぎて、彼女はサンドイッチが並んでいる辺りを物色し始めた。 彼女はこのコンビニのキャンペーン期間限定で訪れるお客さんである。 クマのゆるキャラのキャンペーンが始まると毎日のように訪れては対象商品を購入していく。 決まった朝の時間帯に必ず訪れるので、恐らくは出勤前に寄っているのだろう。 そして僕の好きなタイプ、ド直球。 つまりは密かに一目惚れしている相手なのだ。 同僚たちの間では『クマちゃん』と渾名がつけられている。 よく来店するお客に渾名をつけるのはあまり褒められたことではないのだけれど、だからと言って彼女の名前を知ってる筈もないので僕は『クマさん』と密かに呼ばせて頂いている。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加