『クマさん。』

8/14
前へ
/14ページ
次へ
◇ それから後輩が彼女について触れてくることはなかった。 相変わらず彼女は土日以外は毎日のように店に寄っていく。 このペースだとそろそろ商品と交換できるのではないだろうか。 シールが溜まったら、また彼女は暫く訪れなくなる。 もし彼女が異動があったりだとか、仕事を変えたりだとか、引越ししたりだとかをしたらここには来なくなるんだ。 後輩に言われたことを思い返してついぼんやりしてしまう。 そもそもあんなに可愛いのだから彼氏だっているかもしれない。 ダメな可能性の方が高いのに、やっぱり無理だよ。 レジで項垂れていると、戸惑ったような女性の声が聞こえて慌てて顔を上げた。 「い、いらっしゃいませ!」 そして僕は固まる。 だって目の前には、『クマさん』が、眉を下げて立っていたのだから。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加