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蝉の声が自己嫌悪に染み入る。近くのコンビニで買ったラムネを駐輪場で飲みながら、夏の陽射しに焼かれて馬鹿な自分が蒸発してしまえば良いのにと思った。
「こんにちは」
うなだれていた顔を上げると織田さんの姿があった。図書館の外で会うのは初めてだった。といってもここも敷地内だから大して変わらないのだけれど。
「休憩ですか?」
「まあ、そんなところです」
手にはコンビニの袋を持っていた。中身はお弁当だろうから織田さんの方こそ休憩なのだろう
「最近なに書いてるんですか?」
「異世界ファンタジーものです」そう答えてストローに口をつける。織田さんには前に言った気がするのだが、そんなこと忘れていても不思議じゃない。
「そうじゃなくて……おっとごめんなさいね」
織田さんの携帯が鳴り、謝りながら職員入口の方へと走って行った。
織田さんと親しくなったのは桜が散り始めた時期だった。せっかく図書館に通っているのだから図書館を舞台にした小説を書こうと思い立った僕は織田さんに話を聞くことにした。格好良く言えば取材だ。織田さんには歳の離れたお姉さんがいて、本が好きで学校の図書委員をしていた彼女の影響から司書を目指し始めたらしい。
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