暗闇の向こう側

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 病室の前に掲げられたネームプレート。  必死に目を凝らすが、全く読む事が出来ない。 「くそ……」  正直、何とか見えていた左目も、ほぼ失明に近い状態まで来ていた。 『小鳥遊梓(たかなしあずさ)! お兄ちゃん知ってる? この名字「たかなし」って読むんだよ!』  小さな男の子が自慢気にそのネームプレートを読み上げた。 「……え?」  それってもしかして、アズの本当の名前?  じゃあ……アズはまさか。 「あ、ありがとう……」  そう男の子に声を掛けたつもりだったが、その子の姿は既に消えてしまっていた。  僕はアズに黙って、そのまま元の待合へと戻った。  眠ったフリを始めると、程なくしてアズも帰って来た。 「祥一、もう直ぐ呼ばれるよ」  耳元で囁くアズの声。  僕はぱちりと目を開けて「ありがとう」と一言声を掛けた。
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