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◇
よくよく考えてみれば、僕はアズの事を何も知らない。
知ろうとも思わなかった。
例えどこの誰だろうと、僕には関係ないと思っていた。
病院からの帰り道、僕らは珍しく無口だった。
最初に口を開いたのはアズの方。
「ねえ祥一。今日あの病室まで、私の後をつけて来たよね?」
「……うん」
僕のあの尾行では、正直バレない方がおかしいだろう。
「何となく分かるでしょ? 私はあそこでもうずっと眠り続けているの」
「やっぱり……君は生き霊だったんだね」
「脳死判定が出てるんだよ。両親はそれをなかなか認めようとしないの」
それはそうだろう、心臓は確かに動いているのだから。
髪だって爪だって、身長だって伸び続けて、今もちゃんと大人へと成長しているのだから。
そんな大事な娘の死を、そう簡単に受け入れられる親なんていやしない。
『私ね、ドナー登録してるの。だから祥一には私の目をあげる』
突然のアズの言葉に、僕は一瞬何が起こったのか分からなかった。
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