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◇
「祥一、そこはまっすぐ……あ、待って! 車が来るわ!」
アズには盲導犬のように僕を引っ張る力はないが、その指示は的確で、周りからは「本当は見えてるんじゃないの?」と疑われる程だった。
勿論、病院での検査で、ほぼ見えていない事は明らかなのだが。
アズがいつも後ろから、長時間僕の両目を覆ってくれるので、視たくないモノも今では滅多に視る事はない。
それだけ僕は、アズに助けられていた。
あの事故から約二年が経っている。
僕は現在大学一年。
勿論、大学に入れたのはアズのお陰に他ならない。
そんな僕にも一つだけ、心から大切に思えるものが出来ていた。
「ねえアズ。目隠しはもういいよ。僕の前に来て」
そうすると、背後にいたアズの気配は消え、目の前にその姿を現してくれる。
僕にも視える、優しく微笑むアズの笑顔。
僕は、ふわりと揺れる長い髪へと手を伸ばす。
けれど――
彼女は幽霊。
生身の僕に触れる事など出来はしない。
その手はいつも虚しく空を切るだけ。
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