四杯目・ふたつの醤油

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「あっ、お見えになりました。ほら、ごらんなさい。あの人たちです」 俵太がいう方向に目を向けると、ヒョコヒョコと二人の白髪頭のお婆さんがリヤカーを押しながらやってくる。 そのうちの一人のお婆さんが、俵太に気づき、ぶっきらぼうにいった。 「なんや? 今日は醤油の日ちゃうやろが」 「お客さまをお連れいたしました」 すると、もう一人のお婆さんが、 「ケッ! 余計なことしくさって、お前んとこの醤油のせいで、こっちはいっこも儲けないねんぞ」 双子だけあって、どっちがどっちと見わけがつかない人たちだが、口の悪さも同じようで、店を開ける準備をしている間、ずっと俵太に文句をいっていた。 それを俵太は、目を細め笑顔で返している。 ひとりのお婆さんが、洋志に手まねきした。 「にいちゃん、あんたやがな。にいちゃん、ちょっと、こっちこい」
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