四杯目・ふたつの醤油

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「なんです?」と洋志が駆けよると、 この袋の粉を容器に移せと、いってきた。 洋志がいわれたとおり、粉を入れると、今度はタンクの水を入れろと、いってくる。 「年寄りがこんな重労働してんのに、のほほんとながめてるやなんて」 「ほんま、最近の若いもんはあかんわ」 客であるはずの洋志が、文句もいわずに手伝っているのに、さんざんないわれよう。 たこ焼きを焼きながらでも、お婆さんたちは文句ばかりいっている。 「もうちょい安くならんのかい、醤油」 「当店は、値下げをいたしませんので」 「ケッ、年寄りをいじめて楽しんどる」 「ほんまや。ぼったくり屋め!」 俵太さんの心臓にはきっと毛が生えているのだろう。自分ならこんなアウェイでは、ひとたまりもない。洋志は口の悪い双子に、完全にビビっていた。手伝いが終わってからは、離れた場所で焼きあがるのを待っていた。
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