鏡中エンカウント

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 選択を誤った。数字嫌いというだけで文系をとるんじゃんかったと今さらながら後悔する、十六才の秋。  新任の先生は黒板に教えていると言っても、ぜんぜん失礼じゃない。かれこれ二十分近くたっているのに、背中を向けたままずっとなにかをしゃべっているのだから。また、声も小さくてまるで耳に入ってこない。  おかげで、みな授業中とは思えないほど好き勝手なことをしていた。わたしもその一人だ。カバンからとりだした手鏡を覗き、前髪をまさぐっていた。もちろん最初はペンやら消しゴムやらノートやらを準備していた。けど、この調子じゃ無理だろう。文系コースの未来に暗澹たる気持ちを抱き、わたしは溜息を吐く。  手鏡に映るわたしの顔はどこか憂鬱そうだった。授業に身が入らないということもあるが、最大の原因はこの切りすぎた前髪だ。ただでさえ広いおでこがさらに広く見える。右に寄せても左に寄せても隠せない。かといって、いい感じにも決まらない。  ダメかー。机に体を預けるようにし、だらんと突っ伏す。あきらめとともに手鏡をカバンに戻そうとしたときである。
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