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私達は夕暮れの住宅街を歩きまわった。
寂れた公団住宅の間を通り、雑草に埋もれてしまったブランコに腰かけて赤い空を見て、商店街の団子屋で焼き団子の串を一本ずつ買って立ち食いした。そうして大きな道路に沿ってぐるりと回り道をするように自宅のマンションを目指す。
横断歩道の信号が赤になっていたので、私達は立ち止まった。
タツキの顔を横目で見ようとしたけれど、彼の方がずっと背が高かったから、着ているTシャツの隙間から覗く鎖骨だけがはっきりと観察できた。私がぼうっとしていると、タツキが手を握ってきた。
「信号が変わるまで、いい?」
華奢な身体に似合わない、低い声でタツキは言った。私は頷いた。彼の手はこどものように温かくて、ピアニストのように端正な指先をしていた。これはタツキなりの、別れの挨拶なのだろうか。私は、離したくない、と思ってしまった。身勝手な事をしたのは自分なのに、謝って、許されたいと願ってしまった。
どれくらい時間が経っただろう。横断歩道はいつまで経っても赤信号のまま、私達に「止まれ」と示し続けている。たまに車通りが少なくなっても、タツキは律儀に信号を守って、一歩も進もうとはしなかった。
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