29人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ、今日は朝から来たのか」
玄関で足を拭いているぼくの頭上から、声が降ってきた。
ゆっくり視線を移すと、そこには馴染みの顔があった。
少しうねりのある前髪とメガネという物の隙間から、どんよりした瞳が見える。
今から花壇いじりをしにいこうとしていたのか、タオルを首に掛け、軍手をはめている。
鍵が開いていたのは、出かける直前だったからだったようだ。
「おはよう、ハル。今日もいい天気だね」
「ああ、今日は晴れるらしいな」
ぼくの言葉にハル――小豆澤幸晴が少し面倒くさそうに答えた。
彼は空高学園で住み込みの用務員をしているらしい。
「ねえ、今日のご飯はなに? ぼく、お腹減ったんだ」
「来て早々に飯の催促か。分かったよ、何か用意してやる。その間に泥を流してこい。自分でできるか?」
この様子だと、ハルは朝食を食べるつもりがなかったようだ。
「うん、分かった。でもハル用意していなかったってことは、もしかしてまた朝ご飯抜こうとしていたの?」
「朝飯を食べなくたって、死にゃしない」
「そうかなあ。ぼくならお腹が減って死んでしまいそうだけど」
最初のコメントを投稿しよう!