2.小豆澤幸晴

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 ハルは答えないけど、多分それが答えだ。  彼の弟が亡くなっているのだと教えてくれたのは、初めて会った時だ。  空高学園の校内で目を覚ましたぼくは、南極ではない場所にいて、更に父さんも母さんもコロニーの仲間も周囲にいないことで途方に暮れていた。  そこに現れたのがハルだった。  人の言葉を話すぼくに少しだけ驚いた様子だったけど、ここの宿舎まで連れてきてくれたハルは、この学園についてや彼自身について言葉少なく教えてくれた。  その時、ハルに名前を聞かれたのだけど、ぼくは答えられなかった。  正直今でも人間のいうところの名前というものが一体なんなのか、良く分からない。 「ねえ、ハル。名前ってなに?」 「なんだ、藪から棒に。他と区別するために付ける呼び名だって、前も言っただろう」 「じゃあ、ぼくは皆にジェンツーさんって呼ばれているから、それが名前になったのかな?」 「ジェンツーっていうのは、ペンギンの種類の名前であってお前の名前じゃない」 「そうだよね」  確かにぼくはジェンツーペンギンで、アデリーペンギンでもエンペラーペンギンでもない。  父さんも母さんも、あざらしに食べられた兄さんもジェンツーペンギンだし、ぼくの個としての名前ではないのは理解できた。  理解できたけど、次に浮かぶのは別の疑問だった。
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