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ハルは答えないけど、多分それが答えだ。
彼の弟が亡くなっているのだと教えてくれたのは、初めて会った時だ。
空高学園の校内で目を覚ましたぼくは、南極ではない場所にいて、更に父さんも母さんもコロニーの仲間も周囲にいないことで途方に暮れていた。
そこに現れたのがハルだった。
人の言葉を話すぼくに少しだけ驚いた様子だったけど、ここの宿舎まで連れてきてくれたハルは、この学園についてや彼自身について言葉少なく教えてくれた。
その時、ハルに名前を聞かれたのだけど、ぼくは答えられなかった。
正直今でも人間のいうところの名前というものが一体なんなのか、良く分からない。
「ねえ、ハル。名前ってなに?」
「なんだ、藪から棒に。他と区別するために付ける呼び名だって、前も言っただろう」
「じゃあ、ぼくは皆にジェンツーさんって呼ばれているから、それが名前になったのかな?」
「ジェンツーっていうのは、ペンギンの種類の名前であってお前の名前じゃない」
「そうだよね」
確かにぼくはジェンツーペンギンで、アデリーペンギンでもエンペラーペンギンでもない。
父さんも母さんも、あざらしに食べられた兄さんもジェンツーペンギンだし、ぼくの個としての名前ではないのは理解できた。
理解できたけど、次に浮かぶのは別の疑問だった。
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