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「ぼくにも、名前って必要なのかな」
「さあな」
ハルが興味なさそうに視線を逸らす。
でも、ハルが興味ないってことは、きっと名前なんて大したものじゃないんだ。
それなら、適当に何か付けたっていいのかもしれない。
適当……と考えて、すぐに思い出したものが一つあった。
「ねえ、ハルの弟ってなんていう名前だったの?」
「……なんでだ」
「その名前、ぼくにもらえないかなって思……」
言葉を言い終わらないうちに、ハルが湯のみを食卓に叩きつけるように置いた。
僅かにこぼれた中身を見もしないでぼくを見るその視線は、とても鋭く、冷たかった。
「帰れ」
静かだけど腹の底から出されたような低い声は、これまでに聞いたことのないものだった。
多分、ハルは今とても怒っているんだ。
弟の名前を欲しいっていうのは、そんなにも悪いことだったのだろうか。
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