コンビニ

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コンビニ

    ◇  西の空を赤く染めていた夕日はとうに沈んでしまった。街頭とオフィスビルの群れが投げかける明かりで、活気の無い夜の街が照らされている。  寒空の下、かじかむ手をすり合わせ、温めるように息を吐きかける。手から漏れ出た息が、眼鏡を曇らせた。何が悲しくて、こんな寒風吹きすさぶ店の軒先に、薄っぺらいコンビニの制服一枚で立っていないとならないのか。押し付けられた赤いサンタ帽が一層の哀愁を誘う。  だけど、いつまでもそうしている訳にもいかない。何より、黙って立っているだけではそれこそ凍えそうだ。  手を降ろして、冷たい空気を肺に満たす。それを一気に吐き出して、声を作った。 「クリスマスケーキあります! お一ついかがでしょうか! 半額です!」  声を張り上げる。でも、どれだけ大きな声を出したって、目の前を通り過ぎる人たちの耳に私の声は届かない。スマホから目を離さないし、足を止めないし、こちらを見ない。もしかして私はとっくに凍死してして、幽霊にでもなってしまったのではないか。そんな馬鹿げた考えが浮かぶくらい、道行く人は声を上げる私に無関心だ。     
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