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それがある事が当たり前だと、世の中の大人みたいになってしまうからだ。
*
子どもたちをひとりひとり親に送り届けた後部屋に戻ると、いつも笑顔の彼女が珍しく落ち込んでいた。
壁の前に座る彼女の前に立って、いつも通り手を付ける。
「自分の事を悪く言わないで、海桜は何も悪くないのに」
「そうかな、少しでも先輩の役に……」
「もう学生じゃないんだから、先輩じゃなくて薫子か渾名で呼んでよ」
「それ中学校の時から言ってますよね、先輩は先輩なんですから諦めたらどうですか」
膨れっ面になる彼女を見て笑うと、それに釣られて彼女も笑ってみせる。
その笑顔を見ると、違う種類の笑顔になって幸福感が溢れて来る。
「みーちゃんが来てくれるから、私も気持ちが楽になるな。こんな部屋にずっと居たらおかしくなっちゃうし、すごく暇だし」
「助けられているのは僕ですよ、戦場の垢が洗い流される様な気がします。まだ生きてるのが奇跡なくらいに汚れてるのに」
「なら、まだ死んだらいけないって事じゃないの? 救われた分誰かを救った時、人は初めて死を許されるの」
「なら僕は当分生き残れるな……すみません時間みたいです」
上官からの呼び出しに会話を遮られて、その日は病院を後にする。
*
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