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夢の終まで会いに来て
全てが純白に囲まれた部屋。透明な壁の向こうに、この世界に見捨てられた彼女は居た。
透明な壁に手を付いて彼女を見ていると、何も出来ない自分の胸が何処かに飛んで行きそうになる。
「おかしいな……この手は届かないんだな、先輩は悪くないのに」
透明な壁に阻まれた手は、それ以上進むこと無く、これ以上この空間に何も生む事も無い。それ故何も始まる事が無い。
彼女が未知の病と診断されてから二日後、まるで猛獣でも閉じ込める為に作られた様なこの檻には、青が広がる硝子の向こうと、自分が今立っている透明な壁の向こうの二つだにけしか世界が無い。
それ以外は全てが空虚、空白で虚無。
対照的な彼女には似合わない世界。いわゆる不思議な国に迷い込んだ訪問者。
僕の姿を見て笑顔を浮かべた彼女は、体を起こして縋るように硝子に張り付いている僕の手と自分の白い手を重ねる。
彼女が動く度に揺れる綺麗な白い髪に、何故だか君が消えてしまう気がした。
*
相変わらず変わらない切り離された世界の中に、今にも溶け込んでしまいそうな程儚い彼女は居た。
突然奪われた栄光は彼女と共にこの部屋に詰め込まれ、何も出来ないまま容易く忘れ去られる。
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