0人が本棚に入れています
本棚に追加
恥ずかしそうに頭を掻く大雅。確かに仕事に張り付きっぱなしで一緒に過ごす時間があまりなかった。しかしそれは四人もの子供達に不自由なく生活させてあげたいという彼の思い遣りからの行動だとわからない程四人は愚かではない。どこまでも優しい父親の気持ちに四人は揃って吹き出した。
「え、なんで? なんで笑うの?」
慌てる姿にさらに笑う兄妹。四人は互いに頷き合い、決めていたわけでもなく素直に思ったことを他の三人も考えていると理解し、父を見て一言。
ありがとう。
「父さんが僕達のことを大事に思ってくれているのは良く知ってる」
「私達、お父さんの優しさと愛情はちゃんと伝わってるのよ」
「そりゃ俺だってたまに生意気言ったりもするけどさ」
「……お父さんのこと、大好き……だから」
四人各々の言葉。それを目を丸くして聞く大雅に兄妹達は若干恥ずかしそうに視線を交錯させる。が、
ドバッ! と勢いよく泣き出した父親相手では誰でも狼狽えてしまうことだろう。顔を伏せて目元を袖で拭いながらしゃくり上げる父親にいち早く紅葉が駆け寄り背中をさすり、海斗はズボンに入れっぱなしだったポケットティッシュを出して父親に差し出す。氷河と桜香は三人を見て微笑みを浮かべてそっと歩み寄った。
「いい年して泣くなよ情けない」
しかめっ面の海斗から俯いた顔の前にティッシュを差し出され、受け取った大雅は盛大に鼻を噛む。勢いがよすぎて手元のティッシュから鼻水が飛び出し海斗に若干飛び火した。
「うわ汚ねっ!」
気づいてか気づかずか一心不乱にティッシュを消費し続ける父に何とも言えぬ表情を浮かべて海斗は肩を落とす。
大雅も落ち着きを取り戻し、七日後に開始されるコロニーについて熱く語る父の話を四人は質問を交えながら一時間以上聞き続けた。
これまで過ごしてきて家族間に不和があったことは、海斗と紅葉を迎えたばかりの頃はともかく最近までは少しもなかったが、こと今日においてはその日々ですら物足りなく思えるほどに楽しい一日となった。
だからこそ。
翌日から家へ帰ってこなくなった大雅への不信感と不安感、喪失感は四人にとって大きく応えるものとなる。
「はい、はい……わかりました。ありがとうございます」
最初のコメントを投稿しよう!