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炬燵の定位置に座りながら耳に当てていたスマホを離して卓に置いた氷河が向けられる眼差しを見つめ返して首を横に振り、三人は小さく項垂れる。
式織大雅が仕事に出たまま帰って来なかったあの日。プレゼントだといってコロニーをプレイするための唯一の筐体であるセルを四人に見せた翌日から、そのまま大雅は消息を絶った。帰りが遅くなる日は必ず連絡の一つでもあるはずなのにその日は一切なく、心配する紅葉の言葉に賛同した氷河が大雅に連絡を入れるも反応はなかった。翌朝になっても返信がないことに不審に思い、もう一度電話をかけるが繋がらない。その日の夜も帰って来ず、父の会社へと電話を繋ぐと、何でもコロニー発売前に重大なバグが発覚し、そのリカバリーのために泊まり込みで働いているという返事はあった。だが誰一人としてそれを喜ぶ子はいない。泊まり込みだったとしても連絡一つないというのはおかしいことくらい誰でもわかる。大雅の勤める会社、メシカに直接頼んでも、今は忙しいとの返答で断られて終わりだった。それが二日、三日と続き、今日で一週間。コロニーのサービスが開始される日になっても音信不通は変わらなかった。
「……やっぱり、あれしか……ない、と思う」
そう言って紅葉が炬燵の中央を睨みつけながら言ったのは、コロニー。父親が大好きな紅葉の瞳は寂しさや悲しみに暮れておらず、むしろ強い決意を秘めていた。
「そうね。私もこのまま、主人の帰りを待つ犬のような真似は退屈かな」
桜香の声はいつものように柔らかいが、その実苛立ちが含まれていることは長いこと共に過ごしてきた兄妹にはよくわかる。
「俺はどうでもいいけど、紅葉が寂しい想いすんのは嫌だし」
素直じゃない海斗の言葉も、本心では父親を心配していることがありありと窺えた。
「これで何か変わるかはわからない。何もわからないかもしれない。けど、他に手立てはない。僕達は家族だ。そして父さんも。考えすぎかもしれないけど、父さんが僕達にセルを置いて行ったのは理由があるのかもしれない。都合のいいことに暫くの間は時間はたくさんある」
氷河が立ち上がると、下の三人も同じく立ち上がり、三階の部屋へと上がる。目の前に並ぶ卵は、ついに孵化を始めるのだ。
「行くよ、みんな。父さんを探しに」
「ええ」
「おう」
「……うん」
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