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周囲は黒一色。本当にそれを実行しているのかはわからないが、上を向いても下を向いても左右のどちらも黒があるのみだ。そもそも色と認識できるものがあるのかすらわからないくらいに闇しかなく、目を開けているのか閉じているのか、視力の有無さえ疑わしくなる場所だった。自分は先程卵の機械の中で横たわったはず。その後意識が遠のいていた気もするが実際がどうなのかわからない。時間の感覚さえ失われている気がする。
『ようこそ、コロニーへ向かう新たな迷い人さん。あなたの名前を教えてね』
唐突に頭上から聞こえて来た軽やかな声。それと同時に目の前にホログラムのようなキーボードが浮かび上がる。真っ暗で何も見えなかったその世界に唯一の色が浮かぶと同時に、体の方にも変化があった。本来あるべき質量を持った肉体はないが、代わりにフレームとメッシュで構成された3Dポリゴンの腕が視界の下に生まれ、右手を上げようと試みるとポリゴンの腕が連動して持ち上がり、これが今の仮の肉体なのだと理解する。右腕を軽く開いては閉じてを繰り返して自由に動かせる確認を取ると、目の前の光のウィンドウに触れていく。入力された文字がボードの上に浮き上がる様はVRでもあることだが、存在しないはずのホログラムウィンドウを直に触るという感触はDRならではなのだろう。
入力を終えて決定ボタンを押すと、入力画面が消えて再び声がこだまする。
『確認したよ。――っていうんだね。それじゃあ次に外観を決定するよ。外観決定には三つやり方があってね。現実の君自身の身体をトレースする方法。君自身で体のパーツをカスタムする方法。ランダムにパーツを組み合わせる方法。最後のは何度でもできるよ。だけど一度体を決定しちゃうと、アバターを作り変えるのは難しいから注意してね』
今度は目の前に三つの文章が浮かび上がる。一番上の選択肢を見て唇を噛み、忌々しそうにそれを睨みつけた後、二つ目の選択肢を選ぶ。声に従って頭の先からつま先までを細かくいじり倒し、理想の身体を作り上げるのに一時間はかかっただろうか。声も現実のものではなくゲームに設定されているものを選んでさらにカスタマイズし、ようやくアバターの構成が終了したところで周囲が一転、暗闇から四角く白い部屋へと移り変わる。
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