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そう広いものではなく、四方三メートル程度のものだ。だがそれと同時に見えるようになった、ポリゴンではない肉体に気付いた。透き通るような綺麗な肌になめらかな感触。手を伸ばせば指先は人形のようと呼ぶに相応しい細さと美しさを持っている。
『これからコロニーにおいてのチュートリアルと、――の固有のステータス、適正について話していくよ』
声の流れに従い、新たな身体と新たな名を得、新たな世界の幕開けに期待し胸を躍らせる。もう、誰にも怯える必要はない。これからは自分が王となるのだから。疑いと迷いを一切持たずに、その手を強く握りしめた。口元にぎこちない笑みを浮かべて。
* * *
白い景色がタイルのように剥がれ落ちて行き、その先に見えたのはいつかテレビで見たリポーターの見ていた街並みだった。石造りの四角い建物が乱立し、遠くにはこれまた角ばった巨大な建造物が見える。エジプトのピラミッドの滑らかさを奪い、四角い石を積み重ねて作られた感じのものだ。かなり霞んでみることからそこが相当遠いことと、かなりの大きさであることが推察できる。視線を横に振れば、これまたリポーターが目にした景色の中にあった石碑が垂直に立っていた。わいわいがやがやと騒がしいのは、彼と同じプレイヤーが周囲に乱立しているからだろう。どこを見ても美男美女ばかり。むしろ整っていない顔立ちの方が稀だった。世の中こうも容姿の整った人間ばかりなはずがない。全員とはいかないがそれなりの人間がアバターを作ったのだろう。だがその誰もが簡素な茶色い布地の服を着ていた。視線を下げれば自身も例外なく同じ服だ。
「もしかして兄貴?」
聞きなれた声が横からして顔を向けると、若干目の色が変わってはいるものの、見慣れた顔がそこにあった。
「海斗か」
やっぱり、と笑う弟の目線は普段より高い。明らかに。彼――氷河は外見はほとんど弄っていない。黒髪黒目を若干紺色に変えたくらいだ。つまりは、
「盛ったな」
「な、何をだよ!?」
普段の黒ではない、茶色い瞳が動揺を隠そうとしない。別に、と氷河が僅かに口元を緩めて首を横に振ると海斗は悔しそうに顔を顰め、
「あ、海斗くん身長盛ってるね」
「……嘘、よくない」
二人に駆け寄る少女二人が開口一番にそう言い海斗は膝から崩れ落ちた。
「いいじゃねえかよ……ゲームの中くらいさあ……」
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