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すると玄関が開く音が響く。
「噂をすれば」
「影ですね。ほら、氷河さんも手洗いしてきてください」
「はい」
変に風邪泰作を怠って大事な家族に風邪を移すなど言語道断。手洗い場に向かうと学ラン姿の跳ねた茶髪がガラガラと盛大に音を立てていた。洗面台の鏡に映る背後の兄に気付き、軽く手を挙げてからペッと吐き出す。
「兄貴もおかえり」
「うん、海斗も」
手を洗い、弟からコップを受け取ってうがいする。
「兄貴、後で数学少し教えてくれない? 学校でやっててイマイチわからなくてさ。姉貴に頼んでもいいんだけど、姉貴ってほら、からかい癖あるし」
「それじゃあ食後に少しゆっくりした後にやろう。場所はどうする?」
「炬燵だと間違いなく寝るから俺の部屋で」
他の理由にも心当たりはあるが海斗なりにやる気はあるらしく、その返事に氷河も快く頷く。
「今夜はシチューだ。味見したけど美味しかったよ」
「え、ずりー。俺も味見してくる」
台所に向かう弟の背中を鏡越しに見ながら、それは味見ではなくつまみ食いというのだと考えつつうがいし、居間に戻る。早速炬燵に入り、腑抜けた表情で紅葉同様、卓に顔を乗せてとろけていた。
『ついに発売一週間前! 前代未聞のゲームとあって話題沸騰中の『コロニー』! 本日は制作会社であるメシカに直撃したいと思います!』
「最近親父んとこの会社のニュースばっかりだよな」
ぐでえとしながらテレビを見ていた海斗が言う。
「最近友達にもやたら聞かれるよ。親父が働いてる会社だしもらえるのかとか。んなわけねーじゃん」
「十五万もするもんね……学生にはなかなかきついかも」
「海斗は興味あるの? このゲーム」
氷河の言葉に海斗は数秒考え、
「あるといえばあるけど、やりたいってほどじゃないかな。みんなが話題にしてるから興味あるってくらい」
「そっかー。紅葉ちゃんは?」
「……それより、華」
「紅葉はほんと華道好きだな。あんなじっとしてるの俺には無理だわ。竹刀振ってる方がいい」
剣道部らしい発言に桜香は微笑む。
『本日はコロニー開発グループの担当ディレクター、高鷲陽奈(たかすひな)さんにお話を伺いたいと思います。高鷲さん、本日はよろしくお願いします』
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