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『はい』
リポーターに挨拶を返したのは綺麗な女性だった。三十代前半か、あるいはそれよりも若いかもしれない。後頭部でポニーテールにされた赤みがかった薄茶色の癖っ毛が愛らしくも思える整った容姿の女性、高鷲某は小さく頭を下げる。
『今回は公開されているプロモーションビデオを除いて初めてコロニーについての話を伺えるということで、休日にゲームをしている私もいま、非常に興奮しています!』
『ありがとうございます。可能な限り皆様の知りたいことをお伝えし、より多くの方に楽しんでいただければと思っております』
『なるほどっ。それでは早速ですが、こちらの会社では初めてゲーム業界に踏み込まれたわけですが、その第一歩となるコロニーが現在のゲーム業界のさらに一歩先を行く形となっていますよね。どうしてそのようなことがなし得たのでしょうか?』
「このテレビの人、テンション高いな」
「……相手の人、美人だから」
「それもありそうね」
弟妹達につまらない目で見られているリポーターに特に感慨深くなることもなく、氷河もテレビを見続ける。
『私どもメシカは多岐にわたる産業に手を伸ばさせていただいております。それらの技術、知識を組み合わせ、何とか作り上げることができました。理論ではわかっていましたが試運転段階でプレイしたスタッフも皆揃って目を丸くしていましたね』
『そうでしょうね。私自身、興味から個人的にプロモーションビデオを拝見させていただきましたが、あれは凄まじいまでにリアリティがありましたね』
『ネット上で疑われていたりもしましたが、すべて実際のゲームの映像で、宣伝用の動画を作ったわけではありません』
『いやあ、来週が楽しみで仕方がありません。今日はそれに先駆けてコロニーを遊ぶための唯一の機体、セルを見せていただけるという話です』
テレビカメラに向かって言うリポーターの目はキラキラと輝いている。兄も新しい編み物の技法を知る度に同じような顔をしていたことを思い出して桜香は少し口許を綻ばせた。
リポーターとディレクターが話しながら歩き、一つの部屋の中に入る。そこにあったのは大きな卵だった。卵のような、ということではなく文字通り鶏の卵の形をした巨大なオブジェが鎮座されている。全長二メートルは超えていそうな巨大な卵だった。
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