第0季 ~失踪~

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『これが今噂の中心になっているセルですか?』  真下の台座に支えられるようにして横たえられた灰色に青色の模様が絡められた巨大な鶏卵。カメラが卵に集中する裏で高鷲は肯定した。 『はい。こちらがコロニーへ繋がる、地球人が異世界へと飛ぶ唯一の機体。セルです。プレイヤーの皆さんが素体となり、群体を構成して成り立つ。cellとcolonyという由来より名付けました』 『二つにはそういった命名理由があったんですか。いやぁ、しかしかなり大きいですね。これは一般家庭に設置するには、まず運び込む時点でなかなか酷なのではないですか?』 「それ俺も思った」  ぼやく海斗。確かにサイズを考えれば家の中の狭いスペース、廊下や部屋の入り口なんかはとても通りそうにない。部屋に設置してしまえば小さな一室ならば半分近く空間を埋められかねない。 『私どもも可能な限り小さくしようと画策したのですが、まず人を収納するサイズとしてはどうしてもある程度の大きさが必要となりまして。加えて多くの機器を合わせるとなるとこのサイズになってしまいました。各ご家庭に搬入する際はスタッフが同行し、分解状態から組み立てますので、スペースと電源さえ確保されていれば問題はありません』 『そうか、このまま運ぶには少々大きすぎますからね。組み立てられるという考えがありませんでしたよ』  はははと笑うリポーターを見て桜香が笑顔で、 「薄い人」  短く切り捨てた。たまにこの姉は辛辣な部分があるよなあ、と海斗は冷や汗をかく。基本的に優しいが、時折ぶっ飛びすぎなほどにサディスティックになるから下手なことはできない。明らかに美人に鼻の下を伸ばしているのだから女性視点からすれば心地いいものではないだろうが、ここまで辛辣な物言いをしているということは相当なまでにリポーターの男が気に食わないのだろう。触らぬ神に祟りなしということで氷河と目配せして海斗は無言を貫く。  テレビの中の話は進展してリポーターがテストプレイをさせてもらうことになり、巨大なセルの側面が自動車のガルウィングドアよろしく持ち上げられ、それなりに広い卵の中へリポーターが横たわった。美人ディレクター高鷲某が卵の中へ体を入れて内部のコンソールを操作している間、リポーターの緩んだ頬がさらに緩み茶の間の空気がさらに冷たくなる。
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