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長男のパスを受けた紅葉は、普段ならばしっかり考えて言うせいで遅れ気味に喋り始めるはずなのだが今回ばかりは即時に、それも桜香が一言すら発する前に口を開き、
「背と胸」
「「……」」
兄二人は何も言えなかった。
「わたしは、うーん。紅葉ちゃんには耳の痛い話かもしれないけど、氷河くんと同じで小柄な体かな」
「……お姉ちゃんも、お兄ちゃんも……高いよね」
「そうね。けど高かったら高かったで、低くなってみたいって思うものなの。隣の芝は、って言うでしょ?」
「姉ちゃんに身長抜かれてる男としては悔しい話だけどな」
「そう拗ねるな海斗」
程度の違いはあれど、氷河以外はそれなりに身長に思うところのある式織兄妹。
リポーターが街を歩き、フィールドに出て武器でモンスターを一匹討伐したところで玄関から声がした。少しの間を置いて廊下へ繋がる扉が開けられ、スーツ姿のくたびれた中年が帰ってくる。まだ髪の黒い四人の父親、大雅は四人に迎えられて笑顔で頷いた。
岡田の料理もちょうど出来上がり、炬燵の上に兄妹も手伝って準備をして岡田は帰っていった。代わりに縦に長い炬燵の上手、氷河と紅葉の近くに大雅が入り込みため息一つ。
「あーあったかぁ……」
「親父、それジジ臭……ジジイ」
「え、ひどい」
「……寒かったし、仕事も、頑張った。……仕方ない」
「紅葉は優しいなー」
大雅に頭をわしわしと撫でられて紅葉は目を閉じて受け止め、長男長女はそれを微笑ましく見つめる。海斗は先にシチューを啜っていた。
「そういえば父さん」
「ん?」
ガツガツと食を進める四人の父親は氷河に呼ばれて視線を向け、短く返事をしつつも口は止めない。この寒い冬に炬燵に入りながらのシチューだ、手が止まることはないのだろう。遅くまで働き四人を支えてくれているのだから頭も下がる。
「父さんの参加してるプロジェクトチームが開発してるゲームのコロニー。さっきテレビでやってたよ」
「……なかなか、凄そうだった」
「んー! んーんーんーー?」
「口の中を空にしてから喋れよ、わかんねーって」
海斗に注意されて慌てて飲み下し、つっかえたのか慌てて胸を叩き出す。紅葉に背中をさすられながらお茶で流し込むと大雅は一息吐き改めて子供達四人を見る。
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