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入院(1)
病名を告知され、大きい病院を
紹介された日から何日間か、
自分がちゃんと呼吸をし、何を食べ
何を話し、どう育児をして、
眠っていたのか、覚えていないー
生きた心地がしなくて…
記憶が無かったー
ただ、T病院の診察日の朝、
サトシが義理の母と見送ってくれた時の光景だけは、鮮明に脳裏に残っていた。
不安そうな顔で、ママに手を振りながら「ママ、いってらっしゃい」と
言ってくれた。
義理の母はチエを抱っこしながら
「あかりちゃん、気を付けてね」と
言ってくれた。
右眼は見えなかったが、見える左眼でその姿を捉え、泣きたい気持ちを抑えて「行ってきます。サトシ、ばぁの言うことちゃんと聞いて、
待っててね」
「うん」
ふたりはわたしの姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。
バスの停留所で堪え切れず、泣いた…。
(……どうか…どうか…神様、仏様、眼が少しでもよくなりますように………)
両手を握って強く祈ったー
通勤ラッシュに巻き込まれ、見えない眼でとにかく不安で心細かった…
盲目の方達は視覚を奪われ、本当に毎日生きづらいだろうと、
そんなことを考えながらT病院に向かったー。
最寄りのJ駅にようやく辿り着き、
閑静な住宅街を迷いながらしばらく歩いたら、突然視界が開けて、
その先にT病院が現れた。
その大きさにわたしは唖然として、
立ち尽くしたー。
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