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誕生
「…あぎゃぁ…あぎゃ…」
山野あかり 39歳の冬ー
待望であった女の子を出産。
名前を夫とサトシと3人で考え、
『チエ』と名付けた。
サトシより200グラムほど小さく産まれたチエは、抱っこをするととても軽く感じ、壊れそうでチカラ加減がわからない…
(…小っちゃくて、薄い爪…)
(…手の指はちゃんと5本ある…足の指も…)(…38週目の計画帝王切開術だったから、睫毛がまだ薄いな…これから成長して伸びてくれるかな…)
(…チエはおっぱいうまく吸えるかな…ううんわたしがうまく口に咥えられるかな…サトシの出産から6年経ってるからな…ちゃんと思い出せるかな…)
出産直後から自然とおっぱいが張ってくるー(初乳が出てきた!)
助産師さんに教えてもらいながら、
初乳を搾り哺乳瓶に移す。
帝王切開術後のお腹の痛みも忘れ、
母親としての最初の役目に集中する。しかし初乳を搾るのもかなり痛い…でもこの初乳が、赤ちゃんの免疫力を高めるため必死だった。
やっと一息ついて病室のベッドに座った。待っていたサトシが、新生児用のキャリーベッドの中のチエに近づく。
「かわいいね!!」
サトシの同級生の大半に、もう弟か妹がいたせいもあり、
『オレも弟か妹欲しいよ~』とせがんでいた。
その言葉を聞いて、わたしも初めて二人目の子どもの事を考えたのだった。
そうは言っても赤ちゃんは授かりものだ。どうなるかはわからなかったが、幸運なことにすぐに妊娠することが出来たのだった。
(サトシ嬉しそうだな…無事に産めて良かった…)
「ふふ…」
「サトシ抱っこうまいな!」
「眠ったよ!!」
助産師さんから抱っこのやり方を教わったサトシが、早速チャレンジしてくれた。
(頼もしいな…ママ一人では大変だから手伝ってくれるとたすかるな…)
早くもお兄ちゃんらしい姿に感心した。
西日が射し込む病室には、
確かに幸福な家族の形があったー。
この"しあわせ"が…
ずっと続くと思っていた…
…まさか…
この時すでに…
わたしの身体の中に…
病魔が巣くっていたなんて…
思いもしなかったー。
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