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プロローグ
広大な空と大地が真っ赤な夕暮れに染まるー
山野あかりは、ゆっくりとポピー畑を歩いていたー
赤・白・黄・橙・ピンク・紫・・・
川沿いの大地には、色とりどりの花々が咲き誇っていたー
(…大丈夫、ちゃんと見えてる…色もわかる…)
あかりは、確かめるように端から端まで大好きな風景を見渡したー
(…今、確かにわたしはこの景色を…
ノスタルジックに夕陽に染まったこの花畑を、
自分の眼で見ている…
そして花畑の大地を、
しっかりと自分の脚で歩けている…)
「この現実よー 覚めないで!」
初夏の風がすぅーっと通り抜けた。
わたしはその空気を思い切り吸い込んだ。
あれから3年ー
わたしは病魔との長く苦しい闘いを経て、ようやくここに帰って来れたのだー
「毎年楽しみにしてきたこの景色…やっっと見れたぁぁ…」
潤んでいた眼に手をあてると、涙が零れたー
今年見るこの風景は、それまでとは違ってなお一層輝いて美しく見えたー
原因不明の病魔は、あかりの視力も奪った…もう以前と同じようには見れないかもしれない…と絶望に襲われた時もあった…
その大きな病を、なんとか乗り越えての、今、この瞬間ー
もし病に負けていたら…"今"はなかったのだ!
「ママーーー!!!」
「ママーー!!」
サトシとチエが元気よく満面の笑みを浮かべ、わたしを呼んでいる!
(…うん、あの子達の笑顔もちゃんと見えてる!!)
「はーい!」
わたしは大きく手を振った。
夫がふたりを担いでゆらゆらしはじめた。3人はおおはしゃぎで笑っていた。
わたしも3人を見ながら笑った。涙があとからあとから溢れ出たー。
わたし達家族は、ママが病気になってから、たくさんの寂しさや、悲しみ、苦しみを抱え…疲れ果てていた…。
けれど、なんとかここまでやってこれたのだ…とやっとそう思えることができた。
またこうして4人でここにいられること…。
その奇跡を…尊いこの瞬間を噛み締めながら…
わたしはしっかりと眼に焼き付けていた…。
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