その手を引く者

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   ……誰かが、私の手を引いている。  私はその手に引かれるまま、もう長いこと、この暗くて寒い道を歩いている。  ここは何処なのだろう。道の先は暗くて何も見えない。ただ前方には、闇の中から浮かび上がるように私を掴む白い腕だけが見える。  この人は誰なのか。知っている気もするけれど、初めて会う人のような気もする。 〝待ってくれ〟  誰かが叫んでいる。  後ろだ。遥か後方から声が響いてくるけれど、手を引くその人の足が余りにも速くて振り向くことすらできない。  掴まれている手はとても振りほどけない力で、逃さんとばかりに硬く握られている。  私は泣いていた。  ――どうか、私に何があっても。  幸せでいてほしい。そう、願って。  * 「……なあ、覚えてるだろ?」  その声にはっとして目を開けると、目の前には奥森くんの顔があった。  ……近い。こんなに近距離で男性の顔を見たことがなく、私はぎょっとして飛び起きた。  弾みで、机の上に置いていた鞄がどさりと床に落ちた。そうだ。私は吹奏楽部が終わるのを待っていて、いつの間にか机に伏して眠ってしまったのだ。  夕日が落ちかけた教室は静かで、階下のグラウンドではまだ運動部が残っているのか、顧問の激励の声だけが聞こえている。  
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