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「そもそもさ。家も近いんだから、わざわざ渋谷で待ち合わせしたいなんて言った萌絵ちゃんが悪い……」
言うと更にきつく睨まれた。
「もう……遅くなるよってメッセージしたでしょ……」
「違う」
彼女がはっきり言った。
「ん?」
「遅れたのはいいの──萌絵ちゃん、は、なんか嫌」
「うん?」
「『ちゃん』って、なんか、凄く子ども扱いされてて……嫌」
って、怒るその顔は、本当に幼い子みたいで可愛いんだけど?
「うーん、じゃあ……萌絵?」
途端に彼女が微笑んだ。
「うんっ」
「じゃあさ、僕のことも『藤木さん』はやめてくれない?」
言うと彼女は恥ずかしそうに顔中を真っ赤にした。
「僕よりひどいじゃない、一応、その、僕は恋人のつもり、だし」
何を言っているんだと恥ずかしくて、思わず頬をぽりぽり掻いた。
「なんかさ、本当にパトロンだよ、ご主人様、みたいな」
それはそれで興奮しなくもないけど。
「……ん……じゃあ……た、つ、や……さん?」
「嘘だよ」
あまりのたどたどしさに、僕は笑ってしまう。
「別にどんな呼び方でもいいよ、萌絵が呼びやすいようにしてくれたら」
僕が言うと、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
だって彼女は男が苦手なんだ、そんな子にあれこれ強制しても仕方ない。
現に、この『お願い』も彼女にはハードルが高いようだ。
彼女はまた顔を真っ赤に、耳まで赤くして頷く。
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