マイホーム

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新居生活も3週間を過ぎた頃に、妻が神妙な面持ちで、何か変な音が聞こえると言いだした。話を聞くと、どうやら家に独りで居る時に聞こえてくるらしい。 どんな音か私が尋ねると、最初ラジオのノイズのような音が聞こえ始め、しばらくするとノイズに混じって微かに人が喋ってるように聞こえるらしい。 恐らく、よその家から音が漏れているだけで、新しい生活のストレスから神経質になっているだけだと私が説明すると、妻は、一応は納得した顔をして、気にしないようにしますと言った。 だが、異変は続いた。 妻が買い物の帰りがけに近所の主婦につかまり、一時間程立ち話に付き合わされ、少し疲れたのでソファーで仮眠をとっていると、耳許で何か囁く声がした。私の帰りに合わせ、夕食を作っていると、背後に気配を感じ、振り返るが何もない、まな板に視線を戻すと後頭部を撫でられた。 そのようなことがここ数日に何度かあったらしい。 妻は私に何か変わった事はないかと尋るが、「私はこの家で暮らしてから一度でも怖いと思ったことがない」と答えると、しばらくの沈黙の後、わたしがおかしくなってしまったのかもねと、静かに泣き出した。 私はいよいよ心配になり、病院に行こうと促した。だが妻は精神疾患を疑われ病院に拘束されることや、子供を作ることを止められるのではないかと、頑なにこれを拒否した。 五年もの間、子供を遠慮させていた引け目もあり、私はもう少し様子を見てみようと、自分を納得させた。
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