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「うーん。勿体無いなぁ……」
父に殴られ、ほぼ無一文のまま放り出された私を、先生は感慨深く見つめてくる。
「何も美しい髪まで切らずとも良かったのに」
「……別に、どーせもう見合いもしないし、一生独身だから良いの!!!」
長く伸ばした髪の毛を、耳元までバッサリ切って、振袖と見合い写真も燃やして、お父様の書物も投げ込んで、この屋敷に逃げてきた。
ドバドバとお茶の葉を入れ、急須にお湯を注ぐと怒りに任せてダイナミックに降ってやった。
「……」
先生は黙ったままお茶を飲み干すと、ゆっくり天上を見上げた。
「まずはお茶の入れ方から、勉強して下さいね」
そう言われて、私もお茶を飲む。
「……にっがぁぁぁーい」
ペッペッと吐き出して、表情を変えない先生に尋ねる。
「先生はよくこんな苦いお茶、飲めますねぇ。大人は違うなー」
「……」
先生は何も言わなかったけれど、翌日にお茶缶にはメモが貼られていた。
『一回に入れるお茶の葉は、三杯』
と。
蝶よ華よと育てられ、
華道や茶道よりも、バレーやテニス、
料理や洗濯の手伝いよりも、受験勉強を。
そのおかげで、私は家政婦には向かない特技しか身についていないと気づいた。
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