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「先生、洗濯と皿洗いと掃除終わりましたぁ!」
えいっと襖を開けると、油を差したのか勢いよくぶつかって大きな音を出した。
先生は振り返って微かに頷くと、また目を本へ向ける。
先生は本当に本に顔を埋めてしまうので、視界には何も映ってないと思う。
「先生って本当に『本の虫』ですよねぇ…」
しみじみと良いながら、畳んだ洗濯物を先生の箪笥へしまっていく。
「お嬢さんは物知りだね」
フッと顔を上げて此方を見上げる。
「玉子焼きは焦がすし、甘いか辛いし、雑巾がけした廊下は滑るけど、お嬢さんは努力家だからどんどん伸びてきている」
「ありがとうございまーす♪」
私がニヘヘと笑うと、複雑そうに先生も笑った。
「学がある女性は、知的で美しい」
「へっ………」
「まぁ君には、知的の『知』の字もないのですがね」
このやろー!
馬鹿にしてるなー!
「そりゃあ、人生経験が無いからですよ。努力だけじゃ知的な雰囲気は出せません。
もっと、人生を経験したら私だって、鮮やかな美しい女性になりますよ!」
へんっと鼻を鳴らして、声高々に言い放つと、先生はやっと先生らしく笑ってくれた。
「何年経っても、君は君、ですけどね」
と、笑って。
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