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「せんせー、どこかで花火が上がってますね」
ご飯をよそいながら、縁側を見ると、音と共に微かに空が明るくなった。
「今日は、縁側で食べましょう」
そう言って、外壁で半分も見えない花火を、鯖の味噌煮と共に眺める。
「花火があるって分かってたら、食べやすいのにしたのに、お浸しと味噌汁と鯖の味噌煮って…」
私が呆れるも、先生は欠けた花火ばかりを見ていた。
……先生と居ると落ち着く。
透き通るような存在感の先生のそばに居ると、静かで温かい気持ちになる。
「そっかぁ」
「どうしました?」
鯖の味噌煮の身をほじくりながら、先生は穏やかに私を見た。
「先生は、否定しないなーって」
そう言うと、豪快にお味噌汁を飲み干す。
「周りはずっと、私が何かやろうとすると否定するの。『バレーなんてはしたない、茶道を習って落ち着きなさい』『ズボンじゃなくてスカートを履きなさい』『女が医者になれるわけない』嫌になっちゃうぐらい否定されてた」
先生、だけだった。
目を見て、助けを差し伸べてくれた。
家事ができない私を否定せず、受け止めてくれた。
進歩を、認めてくれた。
「ずっと、女に生まれて窮屈だったの。どうして、女は一歩下がって、男を立てなきゃいけないの?って」
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