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「お嬢さんを映す月は、綺麗です。月が、綺麗ですね」
そう、優しい目で私を見た。
私はまだ応えられずに、食べたお皿を乱暴に洗って、
急いで荷物をカバンに押し込む。
先生は振り返らずに、ずっと縁側から月を眺めていた。
欠けた花火が上がらなくなっても、ずっと。
ポロポロと私は涙を流す。
拭いては荷物をカバンに入れ、拭いては入れるのを繰り返す。
私は、気づかない程、馬鹿ではない。
先生は私が気づかない程馬鹿とは思ってはない。
穏やかにやんわり、距離を離されたかと思ったら、
先生は私を見てくれている。
傷つかない距離で、
傷つけない言葉で。
先生は自分を否定してるから、周りを肯定できてるって思っているなら、大きな勘違いだよ。
先生は、心から優しくて、
先生こそ、心が美しいんだよ。
私はまとめた荷物を畳に力いっぱい投げつけて、先生が振り返ってくれるのを待った。
振り返った先生に、情けない泣き顔で、睨みつけながら、
「――先生がそう言うなら、私死んでもいいわ」
そう言って、あっかんべーっと舌を出すと、先生はやっぱり笑った。
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