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黒い服に身を纏う人々で溢れていた。
奏は席の最前列で、唇をぎゅっと噛みしめ涙を堪えていた。
横には父・一郎が座り、うっすらと涙を浮かべていた。
春の温かい日差しが教会内に入り込み、ステンドグラスを神々しく照らしている。
正面のステンドグラスの上の方には、天に召されていくクリスト様がいる。
「ママも……クリストさまのそばに……」
ぽつりと呟く。
讃美歌を歌う声が震える。
父の手が、奏の小さな手を優しく包む。父の手も震えていた。
本当のお別れは明日。
ママは、土へと還るのだ。
ニホンから、北の大陸のオーセンフェリア帝国に来て1年。
慣れない環境の奏を優しく包み込み、抱きしめ、頬にキスをしてくれたママはもういない。
奏の頭や腕に巻かれた包帯が、参列者の悲しみを誘った。
『……あの曲がり角で……』
『……まだ幼いのに……』
讃美歌を歌え終えた大人達の、言葉が無遠慮に聴こえてくる。
――あのとき、ママにはなしかけなければ――
そんな思いに駆られる。
ママと歌いながら、馬車で買い物に行った帰りの事故だった。
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