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『言葉がたどたどしいな……』
『……だって……むずかしい……』
フランス語を習って間もないのだろうと思った。
クリスは少女の外見から、ニホンから来た夫婦を思い出した。
「イチローのドーターか?」
「イチローは……パパ……」
少し警戒しながら、少女は言う。
「オレはクリストファー。クリスト呼ばれてる。お前は?」
「かなで」
「カナ……ディ?」
「カ・ナ・デ!!」
「言いにくいから、カナでいいや」
むすっとした表情になった少女、カナの横に座る。
今日の葬式には、イチローと懇意にあるクリスの両親も参列し、クリスも同席していた。
何度かしか会ったことがない、イチローの妻のマナミの事を思い出す。
――母親に良く似た娘だな――
「辛いなら、泣けばいい」
カナの頭をそっと撫でた。
ゆっくりと、優しく。
段々と気持ちが緩み、奏を声を殺して泣いていたのが、クリスの胸の中で声を出して泣いた。
泣き疲れて、少しまどろみ始めたカナに、そっと頬にキスをした。
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