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「……さ、ま……」
「……リ、ス……んっ……もう、少し」
「カナデ様?」
柔らかい女性の声に、はっと驚いて夢の中から目が覚める。
「カナデ様、モーニングティーの用意が出来ております」
侍女の心得を会得しているエミリアのお陰で、夢の中でのことを追及されずにすんだ。
――まだ、胸がドキドキしているわ――
夢の中の男性のキスが、昨夜、クリスとのキスを連想させた。
乾いた口の中を湿らすように、モーニングティーを飲む。
ふぅっと軽く溜息をつくと、エミリアが「本日のお召し物はいかがいたしましょうか?」と言ってきた。
何を訊かれても生返事な状態のまま、朝食を父ととった。
一郎は奏がぼんやりとしている様子に、不思議そうな表情をしていた。
――久しぶりに逢った幼馴染があの姿では――
一郎自身も、クリストファーの姿には驚いていた。
晩餐会の後、アントニウスの部屋で話を聴いた時は、“噂”を信じざるを得なかった。
一郎自身、愛実を失った時に“噂”の魔法使いを探したが見つけられなかった。
――私は心のどこかで安堵していたのか? ――
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