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バレンタインデーとブラウニーの話
「ねぇ、美晴さん」
「なに?」
夕飯に使った食器の洗い物の最中、隣に立ち手を泡だらけにした君が私の名前を呼ぶ。
「今年のバレンタインなんだけど」
「…少し気が早いのではないかしら」
カレンダーはまだ二月一日をさしたばかり。
思わず少し眉を寄せながら君を見やれば、フフフフフと君が少し変な笑い声を零す。
「あと十三日しかないからね。美晴さんのことだから、そろそろ何にしようかと考えだす頃だろう?」
にっこりと笑いながら言う君の言葉に、「まぁ、言われてみればそのとおりなのだけれど」と小さく頷く。
「二月…といえば」
「…いえば?」
「如月、ともいうよね。それと」
「殷春、梅見月。雪消月や、雪消月。それと初花月ともいうわね」
「初花月かぁ。どんな字を書くんだい?」
「初物の初に、花束の花に月と書くわ」
「なるほど…じゃあ、初物の花を使った花束を用意しようかな。今年はまだミモザの花は贈っていないしね」
「言ってしまうあたりが、君らしいわね」
くす、と小さく笑う私に、泡まみれの両手をぐねぐねと捏ねながら「だってねえ」と君はつぶやく。
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