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両手を合わせて、ゆっくりと開く。
何をしているのだろう、と冬貴の動きを見ていれば、泡まみれで開いた両手の間に、虹色を含んだ透明の膜が出来ている。
ふううう、と冬貴がゆっくりと息を吹き込むと、彼の手から逃れるかのように、みるみるうちに透明の膜は丸みを帯びる。
けれど、あと少し、というところで、ぷつん、透明の膜は弾けて消えた。
「あああ、失敗しちゃった」
「突然、何を始めるのかと思ったら、シャボン玉?」
「そう。やらなかった? 小さい頃、お皿洗いのお手伝いしながらとか、お風呂の中で、とか」
「……あまり、覚えはないけれど…お店のものでならやっていたけれど」
「僕もやってたよ。たまに間違えて舐めちゃったりしてさ。アレ、苦いんだよね」
その時の苦い記憶を思い出したのか、彼はほんの少し顔を顰めながら泡まみれの手を洗い流す。
そんな彼に、ふふ、とまた小さく笑いながら、「それじゃあ」とふと思いついたことを口にだす。
「今年のバレンタインは、大人になった君には、少しビターなブラウニー、なんてどうかしら?」
「ブラウニー!美晴さんの作るブラウニーは大好きだから嬉しいな」
「あら、それは良かったわ」
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