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横断歩道の前でピッタリと止まっている小石を見付けて、何となくその後ろに立つ。
次いで、車が次々行き交う車道を電柱に寄り掛かってぼーっと眺めている ショートカットの女の人を、横目でちらりと盗み見る。
紺色のブレザーにクリーム色のリボン。膝丈のスカート、黒い革の靴。
後ろに回した左右の手には学生鞄。
お婆ちゃんが死んだ時にお母さんがしていた格好とちょっと似た色合いだな、と、何となく思った。
紺色の制服から連想してふと振り向くと、道のどこかで角を曲がったのか、三四人組の男子学生達はいつの間にかいなくなっていた。
差して気にも留めず、再び横断歩道に向き直る。
車道を行き交う車から足下へすとんと視線を落とすと、小石はちゃんと大人しくそこで信号が変わるのを待っている。
「今帰り?」
静かで沈んだ、薄墨のような声だった。
突然だったので驚いた。反射的に電柱の方へ顔を向けると、ショートカットの女の人が私をじっと見つめていた。
口元にはうっすら笑みが灯っている。
制服の色のせいか、無理に笑おうとしているように見えて違和感が拭えない。
電柱に寄り掛かっているその人は、さっきチラ見した時と比べても姿勢が変わっていない。
通話中ではないという事は一目で分かったが、かといっていきなり声を掛けられる程仲が良いわけでもないし、そもそも顔も名前も知らない他人である。
それでも無反応というのも悪い気がしたので、小さく一回、頷いて応えた。
「そっか。……何かあったの?」
「……なんで?」
「ん? 何かこう、元気が無さそうに見えたから」
女の人はこちらの顔色を窺うように、上目遣いでそう聞いてきた。
私がずっと下を向いているのを不思議に思ったのだろうか。
どうしたのかなあと思って、と付け足すその人の顔だって、あまり元気が良さそうには見えない。
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