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 家事の一切が苦手でも、洗濯だけは己の手でしなければどうにもならない。  ほづみは「めんどうくさい、めんどうくさい」と、会社に泊まり込みで仕事をしている遼を呪いながら、シーツを洗濯機へ放り込んだ。  洗濯開始のボタンを仰々しく押し込んで、珈琲をいれるためにキッチンへと移動する。  一人暮らしには大きめのテーブルには、昨日買ったレーズンパンが入ったビニール袋が置いてある。 「……ん?」  ほづみは湿ったままの髪を掻き上げ、首をかしげた。  あまりにも疲れていたので、パンの入ったビニール袋を放り投げた記憶はある。……が、だからといって中身が飛び散るほど投げつけた覚えはない。 「いや、パンがない。ないぞ」  ほづみは、がさがさをビニール袋を漁った。  五百ミリペットボトルに入った炭酸水。コンソメ味のポテトチップス。  一緒に入っていたはずの、レーズンパンがどうしてか見当たらない。  帰ってくる途中で落としたのか?  半信半疑でほづみは玄関ドアへと視線を向けたが、転がっていたのはネクタイだけだった。 「まいったな、さすがに朝食が水だけなんて味気ないにもほどがある」  パンを焼くか珈琲を入れるくらいでしか台所に立たないので、冷蔵庫に入っているのは氷くらいだ。  卵すら、最近は買った覚えはない。     
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