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 倫理観にさえ蓋をすれば、遼とのセックスは必ずしも悪いわけではないのだ。  睡眠時間を削られるのは問題だが、後腐れなく性欲を処理できるのは、都合が良いといえば良い。  「どちらかといえば、被害者は俺なんだがな」  遼を裏切っている気分になるのは、解せない。 「好きです」とささやく遼の言葉が、真剣なのか、冗談なのか。体を重ねていても、わからないものはわからないし、わかったところでどうすべきかほづみにはわからない。  会社以外でのつきあいは皆無に等しく、恋人もいなければ、休日は家の中でまどろむような生活になる。  人を遠ざけたいわけではないが、自然と一人になる生活が続いていた。  新見遼が現れるまでは、とても平穏な日々を送っていた。  タオルに移った柔軟剤の甘い香りを吸い込みながら、ほづみは湿った体のまま浴室から出た。  まだ、眠気の残る足取りでクローゼットまでよたよたと歩いて行って、着替えを引っ張り出す。  パンツと新しいスウェットパンツを量販店のビニール袋から引っ張り出して、タグがついたまま履く。  新品の、ごわごわとした肌触りに顔をしかめつつ、ほづみは汚れたシーツをベッドから引っぺがした。  料理は外食、掃除はロボット。     
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