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『わたしが少しでも何かすれば、ジッと一挙一動を監視する
それでミスすれば、酷くバカにした口調で、何度も同じ叱責を繰り返す
何か提案しても、取り合ってくれず、むしろ馬鹿にし、
それが少しでも気に触れば、無能で非常識な人扱いで、しつこく酷く叱責される
叱責は、いつも長時間に渡り、その間に正しいことなんてどうでも良くなる
私の意思なんて、どうでもいい
私は無能で非常識なんだ
そう思うに連れて、吐き気や目眩が止まらなくなる
ここから出て行きたい
そのために……』
「父さん、連絡帳を確認できた?」
息子がスマホを覗き込んできた
僕はスマホの画面を慌てて消して、そっとテーブルに置いた
「あ、ああ、問題ない。追加で連絡する人なんて、いなかったよ」
長身の男性の鋭い視線が、僕の顔に向かい突き刺さった
「そろそろお暇します、長々とお話ししてすみませんでした」
婦人は、妻との思い出を話切ったのか、安堵した表情で立ち上がり、相変わらず不機嫌な顔をした長身の男とともに、玄関に向かった
「来ていただいて、ありがとうございました」
「ああ、そうだ」
最後まで不機嫌そうだった長身の男性が、振り向き僕を見つめ呟いた
「奥様がお亡くなりになる前日に、僕のところにもメールをくれましてね、、、聞かれたんです」
「何を聞かれたのですか?」
聞かなくても良いのに、息子が横から口を挟んだ
「指紋認証、スマホの指紋認証の登録方法ですよ」
長身の男性はポツリと答えると、冷ややかな視線を僕に向けた
何だこいつ、気持ち悪い。早く帰ってくれ
「そんなこと、父さんに聞けばいいのに」
急にきた来客の背中を見送りながら、息子が小さく呟いた
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