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焼香を済ませた婦人が、僕たちの目の前で立ち止まった
「この度は、ご愁傷様です。急で驚きました」
婦人は目を真っ赤にしてこちらを見つめ、僕の言葉を待った
この知らない顔は、多分、妻の高校時代の友人だ
この婦人は、僕の知らない高校時代の妻を知っている
それだけで、この婦人を快く思えない。見るだけで不快になる
「本日は、来てくださってありがとうございます。家内も喜んでいると思います」
淡々と言葉をつなぎ、深々と下げた頭を上げると、遺影の妻がこちらを向いて静かに微笑んだ
「本当……急でしたね」
「はい、突然こんなことになってしまって、僕たちも大変驚いています」
妻らしくない、会社で装置の操作ミスを起こし、それで命を落とすなんて
会社の誰にも責任が及ばない事故だったあたりは、周りのことを人一倍考える妻らしい
「先月お会いしたのが最後かと思うと……」
「先月、ですか?」
「ええ、同窓会ですよ。彼女、いつとなく色々なことをお話しされていたのに……」
「同窓会……ああ、同窓会ですね。家内、皆さんと会えて喜んでましたよ」
高校の同窓会に行ったなんて、妻から聞いていない
「ご迷惑でなければ、改めて、ご焼香に伺わさせてください」
妻の高校時代の友人の相手なんて不快だ
頼むから勘弁して欲しい
「落ち着いた頃に、是非」
社交辞令を返すと、婦人はそっと黙礼し、その場を立ち去った
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