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「……やつは何者だ?」
口を割らないザイードを真っ直ぐに見据える。
「ただの商人だ──…たまに珍しい品を持ってくる。マナミに何か贈り物でもと俺が呼び寄せた」
アサドはそう口にしたザイードをふんと、鼻で笑った。
「俺に嘘や誤魔化しは利かんぞ──…やつが身に付けていた服はこの国の物じゃない」
「……っ…」
「その上かなり値のいい指輪を付けていた──…」
「──……」
「ああ、違うな…値のいい物じゃない──…あれは値が付けられんぐらいの物だ…違うか…」
アサドはザイードにじっくりと詰め寄った。
「何も不味いことがないならこれ以上の詮索はせん…だが…」
「だが、なんだ…」
「──…マナミの為を思うなら客を選べ」
「──……」
「さっき裏庭でちょっかい出してたぞマナミに」
「──……っ…またかっ!?」
「またっ?…」
険しい表情を見せたザイードの言葉につられ、アサドもつい眉間に皺を寄せてザイードと向き合う。
ザイードはテーブルにあった呼び鈴を咄嗟に鳴らした。
「マナミはどこに居るっ?」
直ぐに執務室に顔を見せた使用人にザイードは間を置かず尋ねる。
「居室の居間で御茶をお召し上がりになられているかと」
「居室に?……ジャンはっ?」
「先ほどザイード様の居室の前にいらっしゃるのをお見掛け…」
言い終わるが早いか、それよりも先にザイードとアサドは執務室を飛び出していた。
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