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「すみません」
ノルマは軽く頭を下げ、キャリーバッグを浮かせ、車内に押し込んだ。グイグイと硬いバッグを乗客たちの下半身に押しつけている。
「痛ぁい!」
「なにすんの!」
乗客が叫び声を上げ、発車のベルが鳴り始めた。
「すみません」
客の顔を見ないようにしてバッグを無理やり押し込み、ノルマも左半身だけ乗り込んだ。
「やめてよ、足が痛い!」
「おまえ、ふざけんなよ!」
乗客たちが叫ぶなか、ドアが閉まり、ノルマの左胸と背中をガチンと挟んだ。痛みにノルマはやや顔を歪めるが、声は出さなかった。
一瞬ドアが開いたので、ノルマが車内に右半身を引っ込めると同時にドアが閉まった。ノルマの黒いスーツの右袖を挟んだまま列車がゆっくりと動き出した。
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