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不味いならともかく、考えてみれば不思議な話ではある。四つ足物を食べることが忌まれた明治以前でも、ウサギは「何羽」と数え、便宜上、鳥の同類だから食べて良い事になっていたのだ。つまり、日本に根付いていた伝統食の類である。
「如何でしたか?」
「ご馳走様でした。美味しかったです!」
「ありがとうございます」
会計の際、従業員から感想を聞かれると、僕たちは口をそろえて賛辞を述べた。従業員もそれを受け、にこやかに応える。
「すき焼きは元々は、ウサギのお肉が多かったんですよ。牛肉とはまた違った、さっぱりした味わいでしょう?」
「ええ。どうして、殆どなくなってしまったんでしょう」
「昭和四十年代半ばには、国内でのウサギ肉生産が絶えてしまったのです。理由は色々言われていますが、はっきりとは解らないんですよ」
僕の質問に、従業員は残念そうに語った。
自然消滅…… やはり、需要の問題だったのだろうか…… 美味しいのに。
「このお肉はどこから?」
「最近は狩猟で取れたジビエ肉が流通する様になったんです。けれど、この時期は禁猟期という事もあって、どうしても冷凍のお肉になってしまいます。狩猟シーズンですと、より美味しいお肉をお出しできますよ」
「なるほどー」
僕と先生は頷きながら、従業員の説明を熱心に聞いていた。
* * *
「送っていきますよ」
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