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店を出て、先生を送っていこうと、彼女の住む大学の職員寮の方に足を向けようとすると、袖を引っ張られた。
「そっちじゃないんです」
「え? 寮は向こうですよね?」
「あの…… 実は…… 前期一杯で止める事になって…… 今は寮も引き払って、ビジネスホテル住まいなんです……」
「先生、お止めになるんですか?」
唐突な言葉に驚いた僕へ、先生は言いにくそうにしながら事情を説明して来た。
講師としての契約を、前期一杯で打ち切る旨の通告が、大学当局からあったというのだ。
第二外国語としてのポルトガル語は、就職に有利として人気がある言語の一つだ。日系ブラジル人への対応の為である。
だが、ブラジルで話されているポルトガル語は、旧宗主国のそれとは若干異なっている。勿論、相互に通じない訳ではないが、より実践的な講義の為、講師にはブラジル人を充てた方が良いという声が挙がったというのだ。
また、学生の中には日系ブラジル人の子弟もいる。彼等にしても、自分達の母語とは細部が異なる授業に違和感があっただろう事は想像に難くない。
「それにしても急ですね?」
「私の就労ビザの更新時期が今年の九月なんですよー。で、大学当局が更新申請してくれないと、日本を出なくてはいけないんです」
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