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「どうして抵抗しないの?」
熱い息を絡ませ合いながら、月城が訊ねる。すぐに答えられず、曖昧な表情を浮かべた。
「びっくりしすぎて……」
一番、今の自分の感情の中で強い気持ちを答えた。
「そうか……そうだね。……びっくりさせてごめんね」
謝られてもどう反応していいのかわからず、黙ったままでいた。
宇坂はゲイではない。今まで自分の中でその可能性を考えてみたことすらない程に掛け離れた世界だ。だけど月城は違うのだろう。月城が宇坂にした行為は、明確な意思のもと実行されたものだ。宇坂は今、自分がどんな目で月城を見ているのかわからない。わからないその答えを教えるみたいに、月城はふっと悲しそうな顔を見せた。
「……好きだよ。この一年、君のことばかり考えてた」
直前のキスより衝撃的な言葉だった。呆然とする宇坂に、月城は笑顔を見せたが、いつもより歪なものに見えた。
「近付いたら絶対感情を抑えられないってわかってたから、ずっと関わらないようにしてたのにな」
驚きを隠せない宇坂に、月城は小さな声でもう一度、「ごめんね」と呟いた。
「……遠くから見ているだけで充分だった」
いつ、なぜ、どうして。月城がそんな風に思ったのかわからないし、信じられなかった。会話といえば、一年前のあの日だけだ。「お疲れ様です」とか「今日も暑いですね」とか、そんな、したかどうかも忘れてしまう言葉なら交わしていたかもしれないが、特別な好意を抱く要因には到底なり得ないように思う。
いつ、なぜ、どうして。
気になって仕方なかったけれど、訊いてはいけないと直感的に思った。訊いてしまったら、なんらかの責任を取らなければならない気がする。自分はそんなものは負えない。
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